必読二件取り急ぎ

 

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

 洪水で家も家族も失ったおれと兄貴のオールド・レッドは、いまでは西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。だが、ある時めぐりあった一篇の物語『赤毛連盟』が兄貴を変えた。その日から兄貴は論理的推理を武器とする探偵を自認するようになったのだ。そして今、おれたちが雇われた牧場は、どこか怪しげだった。兄貴の探偵の血が騒ぐ。やがて牛の暴走に踏みにじられた死体が見つかると、兄貴の目がキラリと光った……かの名探偵の魂を宿した快男児が、西部の荒野を舞台にくりひろげる名推理。痛快ウェスタン・ミステリ登場。

 ★★★(星3つ。オススメ)
 この兄貴というのが、弟の学費を稼ぐために早くから働いていたので字が読めない。だから、兄貴は何度も弟に『赤毛連盟』を読ませる。そして、海の向こうで活躍するホームズ(実在の人物という設定)から推理という方法を学び、カウボーイでしかない自分を乗り越えようと密かに決意する。

 とにかく、無口だが弟思いの兄貴と口は悪いが兄貴を心から慕っている弟の姿が美しいのである。そんな兄貴だからこそ、彼が不敵に繰り出す名推理に痺れることができるのだ。オススメ。

ラジオ・キラー

ラジオ・キラー

 ドイツからの刺客、セバスチャン・フィツェックの2作目。

 その日が、彼女の人生最期の日となるはずだった。高名な犯罪心理学者でベルリン警察の交渉人イーラの心には、長女の自殺が耐え難くのしかかっていたのだ。しかし、ベルリンのラジオ局で起こった、人質立てこもり事件現場へと連れ出されてしまう。サイコな知能犯が、ラジオを使った人質殺人ゲームを始めようとしていたからだ。リスナーが固唾を呑む中、犯人との交渉を始めたイーラは、知られたくない過去を、公共電波で明らかにせざるを得なくなる。そして事件は、思いも寄らぬ展開へと、なだれ込んでいくのだった……一気に読ませる、驚異のノンストップ・サイコスリラー。

 ★★★
 まあ、後から考えるとツジツマの合わないところもあったりするが、ともあれ、何かの機械のように延々とページを捲らせ続けられること自体が驚くべきことである。人の注意力を操ってしまう秘法を見つけたのだろう。本年4度目の一気読み。