俳句

 暑くもなく寒くもなくの花曇。この季節がわたしは好きだ。キャンパスはがやがやと若人らの未熟な思惑たちが正面衝突していて、気持ちが低迷してしまうが、街中を歩くのは悪くない。気取った高校生だった私は、ちょうどこの季節に俳句にのめりこんだのだった。
 近代の俳句の世界というのは、一つの雑誌の創刊に始まる。そこへ、野心を秘めた若人らが、弓を射るがごとく独創的な句を次々と放ち、巻頭に掲載され注目を浴びることを目指した。同時に、そういう若人らの社会的上昇の野心を見事に吸い上げて、近代俳句は裾野を広げることに成功し、文化として自律したのである。
 ブルデューはどこかで、うまい政治とは、情念を絶つのではなくて、巧みに絡み合わせることで有意義な帰結を生もうとする政治だと述べた。自ら上昇意欲の塊の人であったブルデューは、そういう野心を活かす術をよく心得ていたといえるだろう。ちなみに、界の理論とは、この情念の人の世界観のそのままの現れである、といってよい。
 話を戻すと、賞という制度には、野心という情念と、制度創設者側の優位性の維持と、分野全体の勢力拡大と、さまざまなインプットとアウトプットの関係が考えられる。そして、これが近代の文化生産の無視できない駆動力であったことも重要である。賞の起源についても知りたい。