軍隊の下半身

 

フルメタル・ジャケット [DVD]

フルメタル・ジャケット [DVD]

 ひかり回線を通してスカパーをみる生活には非常に満足している。地上波の番組では深夜番組以外に見たいと思えるような番組がなかったためである。これまでテレビはあっても使わない生活というのが長く続いていたが、今はテレビ漬けといっていいかもしれない。地上波の放送がどうしてこんなに駄目なのかということについてはもう少し述べたいところだが、それは措くとして、先日偶然に見たフルメタル・ジャケットについてちょっと感想を。

 戦闘シーンに特に斬新さを感じなかったのだが、とにかく全編にわたって下半身をタネにした卑猥な言葉が飛び交う点に驚かされた。上官が新米を罵るのも下品な言葉なら、軍隊に配属されてから友人と交わす言葉も下品である。戦争映画も数あれど、ここまで軍隊組織の本質的な猥褻さに焦点をあてた作品も少ないのではないかと思わずにはいられなかった。

 昔、警察の暴露本をよく読んでいた頃に(悲しい思春期だな!)、「警察組織の中で害のない話材は人の悪口か下ネタだけだ」という指摘があって「なるほどなー」と思ったのを思い出した。人種も階級も違うが性別だけは同じ連中が集うときに最も参入障壁の低い話題が下ネタなのだろう。個人的な対立関係があったとしても、それらは「XXの駄マラ」みたいなしょうもない下ネタでジョークになってしまうので害がない。その上、下ネタを通じて、気取りのない本質的な人間関係を築けているかのような幻想も与えられる。なるほどこれだけ便利な話材もないわけだ。

 ここからは深読みになっちゃうけれども(ネタバレ注意)、本作の見せ場は、前半のアレと後半のアレの二つだと思うのだけれど、どちらも銃の発射という出来事があって、どちらも意外な人物が射撃の標的になってしまう。それは男たちが馴れ合いの下品な関係を築く上で……いや、敢えてここは「下品さを機能させる上で」と言いたいが……、障害にならざるを得ない存在であって、一方が父親で他方が娘なのである。そして、その発射はなんとも言えない後味の悪さを残すのだ。