荒ぶる血(転載)

 

掠奪の群れ (文春文庫)

掠奪の群れ (文春文庫)

 というわけで、ひそかに、ジェイムズ・カルロス・ブレイクの新作が出ていたので、近々読む予定。その前に、一年ほど前にmixiで掲載していた前作の感想を一部修正して転載しておきます。
 
荒ぶる血 (文春文庫)

荒ぶる血 (文春文庫)

 近頃評判のジェイムズ・カルロス・ブレイクの新作を読んだ。
 大変面白かった。20世紀初頭のメキシコとアメリカ南部とが舞台となっているのだが、メキシコが恰も人外魔境のように描写されているのがよかった。
 とにかくすべてが乾いている。メキシコ出自の主人公も悪役も人殺しをなんとも思わない。淡々と人を殺して淡々と死んでいく。真っ直ぐな意志しかなくて絡み合う企みも陰謀もない。そして砂漠は延延と続き、太陽と月と丘しかない。ギターの匿名的で散文的な響きがどこからか聞こえてくる。  
 南米的である。ボルヘス的でありマルケス的でもある。常軌を逸したホラ話が非情さと絡み合う。こんなに広い荒野では目撃者などいない。だから、ホラ話も人殺しもありふれたものなのだ。そして宿命だけがこの地を支配するのだろう。