ミラーズ・クロッシング(ネタバレ)

 

ミラーズ・クロッシング(スペシャル・エディション) [DVD]

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 コーエン兄弟によるギャングもの。禁酒法時代のイタリア・マフィアとアイルランド・マフィアの話。アイルランド・マフィアのボスと友達の主人公が女を寝取ってイタリア・マフィアとつるむが……という話。
 ギャングものの要素が一通りそろっており二時間程度で起承転結が一回りする。筋だけを見ればそういう話である。緊張があり、裏切りがあり、殺伐がありで満足できる。
 ただ、筋書きがあまりによくできているので、自分が見ているのは、ただの機械仕掛*1なのではないのかという疑念が生じる。これは突き詰めると、ミステリってなに?っていう問いにもなるんだが。純粋にドンパチを愉しむというのはなかなか高尚なことなのかもしれない。
 高尚になれないわたしは、いつもそのドンパチの意味を考えてしまう。筋を忘れて印象深いシーンをかき集める。
 すると、この映画は、やたらと帽子をフィーチャーしていることにイヤでも気づく。帽子っていうのは禁酒法時代の連中がやたらと被っていたアレだ。アンタッチャブルなんかに出てくるアレだ。
 晴れの日も曇りの日も連中は帽子を被る。丁寧に帽子を押さえつけ、左右のバランスをとる。無意味なしぐさだ。数秒ムダにしている。でも被る。
 借金のカタにとられた帽子を奪い返しに行くし、帽子が飛んでいったまま戻ってこない悪夢も見る。葬式で別れた友も去り際に手にした帽子を注意深く被る。関係ないが、路地で殺されたマフィアはズラを外された状態で見つかる。
 帽子を被ると顔の表情の上半分に影が差し表情の解像度が下がる。目だけがギラギラと光って何も教えない、そういう表情になる。一度はためらった殺人を躊躇なく犯す主人公は「ハートはなくなった」と言い放つ。そしてまた帽子を被るのだ。

*1:関係ないけど、あの振り子が5つぐらい並んでいて片方を揺らすと慣性運動量保存の法則で反対側の玉が動くアレはなんという名前なのか