宮部みゆき『模倣犯』
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2001/03/01
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- 作者: 宮部みゆき
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これは、この二人が、日本のミステリが松本清張風の社会性に回帰したときに、その流れを牽引してきたという意識があるからだろう。ちょうど高校生だったわたしは高村薫を必死になって読んだ記憶がある。邦ミスには久しくなかったそのスケールのデカさと仄かなロマン主義に溺れたものだった*1。
高村薫は基本的には因縁話が得意である。事件は現代に起こるのだが、その事件の原因は、数十年前へと遡る何らかの複合的な社会的要因に求められるべきものである。要するに、過去のどこかの時点で時限爆弾が仕掛けられ、それが殺人事件として破裂するのである。
宮部みゆきの場合には、事件の原因は、現代社会の変化に求められている。『火車』はカード破産、『理由』は不動産不況、『模倣犯』は犯罪の凶悪化という現代的な原因を持っている。事件とは、現代社会の変化と人とが出会ったときに生じる衝突事故のようなものだ。
高村が「近代」を扱うのならば、宮部は「現代」を扱う。高村が構造を語るならば、宮部は変動を語る。そしてまことに蛇足ながら、高村は和暦が似合い、宮部には西暦が似合うと言えるだろう。
高村が戦後日本社会の構造の深みを見通す洞察を持った作家と認められる一方で、宮部は、現代社会の変化を素早く感じとる感受性を持った作家として認められるようである。
宮部のこういった特徴が、本作の良い点と悪い点とを同時に規定しているように思えた。
一言で言えば、劇場型犯罪の在りようとそれに翻弄される人々については実に細やかに描かれている一方で、事件に関わる者たちの過去へと遡る因縁が説得的に描けていない点が気になったのである。高村であれば、この辺りを、胃もたれするほどネットリと書いたであろうに。
おそらく、宮部が説得的な因縁話を語るための(高村とは異なる)スタイルを得たとき、『火車』を超える作品が生まれることになるのではないか。