アメリカとソ連

 ぼーっとしていると、更新が二週間ぶりになったりするわけで、どうしようもない。最近は、空いた時間に、数学と語学のお勉強をやっております。まあ、趣味止まりですが。
 以前『チャイルド44』と『ビッグ・ノーウェア』を併せ読みしたのと同様、今回は、
 

ゴーリキー・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴーリキー・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ゴーリキー・パーク 下 (ハヤカワ文庫 NV ス 10-4)

ゴーリキー・パーク 下 (ハヤカワ文庫 NV ス 10-4)

冬そして夜 (創元推理文庫)

冬そして夜 (創元推理文庫)

とを併せ読みしてみました。
 前者は、再読になりますが、『チャイルド44』とは本気度が違うと実感しました。最初の数ページを読むだけで刑事モノとしての風格を感じさせます。まあ、前半の展開はややゴチャゴチャしておりその点がとっつき難さに結びついているかと思いますが、中盤以降、モスクワを離れてからの展開は、わざと描写の密度を下げて、詩的な雰囲気を醸し出すことに成功しております。前半の描写の密度の高さがソ連社会における諸制度の軋轢を示すとすれば、後半の密度の低さが人間の不変さを切々と謳い上げるといった調子。ソ連なき今も不朽の名作であることを再確認した次第。
 S.J.ローザン『冬そして夜』は、アメリカ社会のありふれた町での悲劇を描いた作品。コロンバインの銃乱射事件に材をとり、学校カーストの最底辺にいるおかげで学校はもちろん町中から蔑視されている少年の、カースト頂点に君臨するアメフト部員らへのルサンチマン。なにが恐ろしいって、アメフト部員の犯罪を町ぐるみで隠蔽するその有り様で、町の成員が心からそれに同調している点で、下手すりゃ恐怖政治より恐ろしい事態になってしまっているわけです。恐怖政治下であれば、当局に密告する利益と仲間を売って痛む良心とを秤にかける可能性がありますが、こんな町では、後者の錘が存在しないわけですから。しかも、スポーツに入れ込む町の人々はそこに小市民的な幸せを見出してしまっているわけで。
 作品としてみた場合には、ラストのゴニャゴニャが読後感を損ねているように思えてマイナス。とはいえ、スポーツに過剰に入れ込む小さな町の描写には一読に値するグロテスクさが示されていると思います。